電気設備の技術基準の解釈の解説
第52条(架空弱電流電線路への誘導作用による通信障害の防止)
経済産業省の一次資料を確認(新しいタブで開く)該当頁の目安 p.85–89
〔解 説〕 架空電線路の架空弱電流電線路に対する誘導作用による通信上の障害には、使用電圧に関係のある静電誘導作用及び架空電線の正常時の負荷電流又は地絡事故若しくは短絡事故の際の故障電流による電磁誘導作用の二つがある。本条は、これらの障害を軽減し、又は回避するために設けられている。誘導作用による通信上の障害について、従来は既設の架空弱電流電線路に対する障害防止のみを対象としていたが、本解釈では、全ての架空弱電流電線路を対象としている。したがって、架空電線路の建設後に施設された架空弱電流電線路に対しても通信上の障害を与える場合は、これを防止するために何らかの措置を講ずる必要があり、この場合の措置に要する費用の負担については、電気事業法第41条に定められている方針に基づいて解決されることになる。なお、き電線路については、第204条に示している。また、本条を含む第3章第1節及び第2節の規定は、第64条において低圧架空電線路又は高圧架空電線路から除かれている電線路及び第83条において特別高圧架空電線路から除かれている電線路に対しても適用されることとなるので注意を要する。
第1項
第1項第一号において、低高圧架空電線は、大地から絶縁されている(→第13条)ため、一般に単相及び三相回路の正常時の電磁誘導作用は、第204条の直流単線式電線路に比べ軽微である。離隔距離を大きくすることは、誘導作用による障害を防止するための効果的な手段の一つであり、本号では離隔距離を2m以上とすることとしている。第一号は、誘導作用による通信上の障害防止のために離隔距離を規定しているが、第二号では、第一号により架空電線と架空弱電流電線との離隔を確保しただけでは十分に誘導作用による通信上の障害を除去できない場合に、更に必要に応じて適当な対策を講ずる必要性を示している。
ロは、ねん架を行うことにより電磁誘導作用を減少させる方法を示している。
ハ(→解説52.1図)は、接地した金属線の介在が静電誘導を低減し、また電磁誘導に対しても接地点を適当に設けることにより、その低減の効果を大きくすることができることを示している。
解説52.1図
ニは、中性点接地式高圧架空電線路の場合は、接地故障時には大きな地絡電流が流れ、正常時でも第3高調波により大地に電流が流れて、既設の弱電流電線に対して誘導作用による通信上の障害を及ぼすおそれがあるので、このような場合に中性点の抵抗器の抵抗値を増す等の方法によって地絡電流を極力少なくし、又は接地箇所が2箇所以上の場合には、並行区間に流れる地絡電流を少なくするように接地箇所を変更する等の方法により電磁誘導作用を防止する方法を示している。
第2項
第2項は、前項の規定によらないことができる条件を示している。低高圧架空電線にケーブルを使用する場合(→第67条)は、第76条に規定する架空弱電流電線との離隔距離を確保すれば、通常、電磁誘導作用による通信上の障害はほとんどないと考えられる。万一、通信上の障害を及ぼすことが確認されたような場合には、第1項各号に準ずることが望ましい。
第3項
第3項は、中性点接地方式の高圧架空電線路では、前述のように誘導作用による通信上の障害の原因となる要素が多いので、並行しない場合であっても架空弱電流電線路に障害を及ぼすおそれがあるときは、必要に応じて第1項第二号に従って適当な対策を講ずることを示している。
第4項
第4項は、特別高圧架空電線路の電磁誘導作用による通信上の障害を規定しており、一般に中性点接地式電路を対象に考えればよい。60kV以上の電線路はほとんどが中性点接地方式であり、20kV、30kV級の電線路でも、中性点接地方式のものが少なくない。中性点を接地することは、異常電圧の発生を抑制するほか、地絡故障時に故障点の選択遮断を行い、送電の安定を図り得る利点があるが、一方で故障の際の地絡電流や不平衡電流(三相4線式の中性線多重接地の場合に特に検討を要する。)による電磁誘導作用のために近接する弱電流電線路に有害な誘導電圧を発生し、人体や機器に障害を与えるほか、電話線には雑音による通信障害を起こすおそれがある。これらの障害を除去するためには、地絡電流については高速度遮断器を使用する、地絡電流を保護リレーの感度等よりみた必要最小限度の値にするように中性点の抵抗器の値を大きくする、又は消弧リアクトル補償方式を採用する等の方法、不平衡電流については負荷のバランスを図る、又は同一接地系統を小さく分ける等により不平衡電流を小さくする方法をとる必要がある。また、両者間の離隔距離を大きくする、特別高圧電線路及び架空弱電流電線路にシールド線を施設する、又は弱電流電線路に避雷器のような適当な保安器を取り付けること等も有効な方法である。要するに、障害防止方法としては、弱電側に防護施設をした方が経済的かつ有効な場合もあることから、実際の施設に当たってはこれらの諸方法を十分に検討して、最も実情にあった措置をとることが必要である。
1A当たりの電磁誘導電圧の計算 現在、電磁誘導電圧の計算には、深尾氏の公式が用いられているが、Carson pol-laczekの公式も参考として用いられる。深尾氏の公式は、次のとおりである(→解説52.2図)。
〔数式:式1〕
V :通信線に誘導する電圧(V/A)
f:地絡電流の周波数(Hz)
b1、b2:送電線と通信線との水平距離(m)(通常5,000mまでが影響範囲として計算される。)
l1、l2:それぞれb1、b2間及びb2、b3間の送電線路のこう長(m)
K :定数であって、富山県、長野県及び静岡県以東の各府県並びに北海道では、山地は0.0005、平地は0.00025とし、前記以外の地方では、山地は0.0008、平地は0.0004
解説52.2図
電磁誘導電圧が何V以上となれば対策を必要とするかは、被害を受ける側と与える側で協議する問題であることから、本規定では許容値を示していない。
日本では、誘導調査特別委員会報告(電気学会・電子情報通信学会 平成5年11月)で、雨天時に心線を素手で掴み接続作業をするような状態で、手から胸部へ通電するような過酷な条件を考慮して、胴体の接触部が誘導電流の経路とならない設備上の対策を実施したうえで、故障電流が確実に0.06秒以内となるよう維持される高安定送電線からの誘導電圧に対しては、650Vを制限値とすることが適切であるとしている。
また、国際的には、ITU-T(国際電気通信連合)が勧告(K.33 平成8年10月)を示しており、一般的には2,000V、保守管理作業の状況等が上記のような過酷な場合においては650Vを制限値としているので参照されたい。
第5項
第5項は、特別高圧架空電線路の静電誘導作用による架空電話線路に対する誘導障害防止の規定である。特別高圧架空電線路の建設に当たっては、既設の架空弱電流電線路の施設状況を十分に調査し、また本条に定めた計算方法によってその障害の程度を調べて適当な離隔距離をとる等の対策が必要である。静電誘導作用は、電磁誘導作用とは異なり、主として送電時の通話障害が問題となるので、常時通信上の障害を及ぼさないことが重要であり、瞬間的な障害は問題にしていない。なお、架空ケーブルの場合は、ケーブルのちょう架用線が接地されているので静電誘導による障害は少ない。第5項の「架空電話線路に対して、通常の使用状態において、常時静電誘導作用により通信上の障害を及ぼさないように」とは、計算上は支障を及ぼさない程度の距離に離しても、実際に使用を開始した場合になお誘導作用による通信上の障害を及ぼすおそれがあるときは、特別高圧電線のねん架を十分に行い又はD種接地工事を施した金属線を両者の間に架設して遮へいする等により、十分にその障害を除去すべきことを意味している。この場合、弱電流電線路側においてねん架その他の手段を講じたほうが経済的かつ有効なことが少なくないので、このような場合には弱電流電線路の管理者と十分協議する必要がある。
なお、従来は単線式電話線路、架空電信線路についても規定していたが、H9解釈では、その設備がなくなったことから削除した。
第三号イの計算式の適用方法を解説52.3図を例として以下に示す。
解説52.3図
〔数式:式2〕
ロの計算式の適用方法を解説52.4図を例として以下に示す。
解説52.4図
〔数式:式3〕
なお、以前は省令第27条第1項及び第2項と同一内容を解釈にも示していたが、H23解釈において省令との重複記載を避けるため削除した。省令第27条第1項は、500kV送電線の出現に伴って、人に対する静電誘導による電撃を防止する必要性からS43基準に規定された条文であるが、その後、電気協同研究会に超々高圧送電線技術専門委員会が設置され、静電誘導による人体への影響と防止対策について調査研究が行われた。この研究報告によれば、この場合の静電誘導とは、送電線下の電界中に絶縁された導電体があると大地との間に電位差を生じる現象であり、この導電体に人が触れると刺激を感知し、その際、放電電流が人体を通過する現象であり、接地された導電体に絶縁された人が触れた時も同じである。この場合に人体を通過する電流は、送電線が通常の施設状態においては、一般の感電における安全限界に比べはるかに低い領域にあり、人に直接危険や障害を及ぼすものではないが、接触の条件、心理条件、地域条件によって不安感や不快感を与えることがあると報告されている。したがって、S51基準では人体に対する静電誘導感知防止対策として、送電線下における電界強度の許容限度を規定した。なお、感知現象が送電線の線下で傘をさして通行中に傘の金属部分に触れるというような、ごく限られた条件下で発生するものであるため、田畑、山林並びに山林や農地での作業等のため、ごく限られた人のみが立ち入るような林道又は農道などの人の往来の少ない場所は除外したが、一般的に利用されている林道若しくは農道又は公園となっている河川敷等は人の往来の少ない場所に含まれない。静電誘導による電撃を防止する方法としては、送電線の地上高を上げ、2回線送電線においては、両回線の電圧相順を逆相順にし、又は遮へい線を施設することなどが考えられる。自動車に対する静電誘導などは、導電性タイヤを使用することにより相当少なくなったと言われており、被害工作物における対策としてはこのようなことも効果がある。
省令第27条第2項は、電磁誘導作用による障害は通信上の障害ばかりでなく、送電線事故時には、弱電流電線に対して誘導電圧により弱電流電線の作業者や通話中の人に感電のショックを与えることがあるので、これを防止する必要があることを示している。電力保安通信用設備が除かれているのは、それが省令第27条第3項において規定されているからである。
なお、第3項及び第4項では、架空弱電流電線路のみでなく、地中弱電流電線路に対しても考慮することとしている。
したがって、特別高圧架空電線路の近くに地中弱電流電線路がある場合は、これに対しても障害の有無をチェックしておく必要がある。