電気設備の技術基準の解釈の解説
第209条(電食の防止)
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第1項
〔解 説〕 直流帰線は、第13条第二号により「電路の一部を大地から絶縁しないで使用することがやむを得ないもの」
に指定されている。一般に帰線は、道床砂利、敷石等の絶縁性のものによって大地に対して漏えい抵抗を有しているが、その値は、専用軌道の場合1~10Ω・km、併用軌道の場合0.1Ω・km程度で、一般の回路に比べるとほとんど接地に近い値である。しかし、この値の大小は帰線から大地へ流出する漏えい電流を左右するので、これをできるだけ大きくする必要がある。
このため第1項では、裸線を直接大地に施設することを禁止し、クロスボンド、レールボンドのような裸線の施設は僅かであるが絶縁の役目をする道床砂利、敷石のある範囲内に限ることとし、レール近接部分(→第201条第七号)以外に施設される負き電線等には絶縁電線又はケーブル等を使用して電路を大地から絶縁することを規定している。
第2項
第2項では、直流帰線のレール近接部分が金属製地中管路と接近又は交差する場合について規定している。直流式電気鉄道でレールを帰線に使用する場合、帰線と大地との間を完全に絶縁することは工事上困難である。このため帰線から漏えい電流が生じ、この電流が付近に埋設された金属製の地中管路(ケーブル等を含む。→第201条第八号)に流入して電食を起こさせる。これを防止するために帰線のレール近接部分と金属製地中管路との離隔距離を1m以上とすることを定め、工事上やむを得ず離隔距離を1m以上にできない場合の施設方法を定めている。第二号は、漏えい電流の地中の通路の長さを1m以上にすれば、同様の目的が達せられるので、レール近接部分と埋設物との間に絶縁性の隔離物を設けてその通路を1m以上にするよう定めている。イ及びロは、漏えい電流の回路の電圧は一般に非常に低いので、その絶縁性の隔離物には高い絶縁性が必要でなく、むしろ劣化が少なく耐久力が大きいこと、機械的強度が大きくき裂等を生じないことが必要であり、このような見地から隔離物の成分、厚さ等を規定している。
第3項
第3項は、鉄橋では、鉄桁を介して帰線と管路が電気的に接続されるおそれがないような方法を講じることを意味している。
第4項
第4項は、直流帰線のレール近接部分が金属製地中管路と1km以内に接近する場合について規定している。金属製地中管路の電食は、主として帰線のレール近接部分から大地に流出する漏えい電流に起因するものであるが、漏えい電流の方向、流出入の状況等を概括的に表すと解説209.1図に示すようになる。
解説209.1図
解説209.1図 (a) は電車の運転状態を示し、図 (b) は大地の電位を基準として考えた場合のレール及び金属製地中管路の電位の変化を示している。図 (c) は、金属製地中管路周囲の大地電位を基準としたときの金属製地中管路の電位を示しているが、これによって金属製地中管路への漏えい電流の流出入の状況を知ることができる。中性点N(レール、金属製地中管路の電位が大地電位と一致する点で、変電所と電車の中央付近に生じ、図 (d) に示されるように、中性点では金属製地中管路と大地の間に電流の流出入がなく、金属製地中管路を流れる電流が最大となる。)を境として、それより変電所側は、金属製地中管路より大地に電流が流出する地域、すなわち、電食を引き起こす危険地域であり、その反対側は、金属製地中管路に電流が流入する地域、すなわち、安全地域である。なお、この関係は、電車の位置の変化に伴い変化する(大地に対する金属製地中管路の電位は、前者の場合は正、後者の場合は負である。)。
解説209.1図は、レール及び金属製地中管路の電位等の基本的な関係を示したものであるが、実際には多数の電車が同時に運転されるので、上述の電位分布は複雑となり、かつ、不断に変動し、漏えい電流は複雑な分布をなすので、その実態を把握することは極めて困難である。
金属製地中管路の電食に関係する要因は極めて多いが、その主なものを挙げると、帰線の電気抵抗、軌道床の漏えい抵抗、大地の電気抵抗、き電用変電所及び負絶縁帰線の施設状態、金属製地中管路と帰線との離隔距離、運転ダイヤ等である。
したがって、帰線と金属製地中管路との離隔距離のみで電食の被害の程度を判断することはできないが、一般に、金属製地中管路の電食と密接な関係を有するレールの対大地電位傾度は、解説209.2図に示されるように帰線の付近が最も急崚で(解説209.2図の場合は、レールとレール直下の大地面との間の電位差は10Vである。)距離の増加とともに平滑となり、1km程度離れれば非常に僅少となる。
解説209.2図
したがって、レールと金属製地中管路とが1km以内に接近する場合を電食発生のおそれがある場合とみなし、帰線のレール近接部分に対し、本項及び次項において種々の施設制限を規定している。
なお、道床の構造により大地に流出する漏えい電流は著しく異なるので、その施設制限も自ずから相違してくる。このため、専用敷地内に施設する道床砂利の厚さが30cm以上の軌道構造を有するものについては次項に、また市内電車のように道路に施設される舗装又は無舗装軌道と、道床砂利の厚さが30cm未満の専用敷地内の軌道については本項にそれぞれ規定している。
第一号は、施設の制限を行わなければならない区間の範囲を次のように定めている。
①1変電所のき電区域内において、金属製地中管路から1km以内にある連続した帰線(→解説209.3図)
②1変電所のき電区域内において、帰線と金属製地中管路が100m以内に2回以上接近する場合は、その中間の部分で離隔距離が1kmを超えてもその帰線の全部(100m以内に2回以上接近する場合は、その接近部分で、帰線からの漏えい電流の流出入が生じるおそれがあるため。→解説209.4図)
なお、1変電所のき電区域内のみについて考えるのは、漏えい電流の遊動範囲は、それぞれの関係変電所のき電区域内に限られるからである。
解説209.3図
解説209.4図
第4項ただし書は、地中管路の管理者の承諾を得た場合は、第4項各号によらなくてもよいことを示している。
第二号は、電食の危険区域を変電所、負き電点付近に集中させ、排流施設等の電食防止対策の実施を容易にするため、帰線を常に負極にするよう規定している。
第三号は、漏えい電流を軽減するため、レールの継目の電気抵抗値を制限し、その保守の基準を定めたものである。
一般にボンドを用いたレール継目の抵抗の変化は、接続した当初には、接続部分の抵抗の増加は極めて少なく無視し得る程度であるが、解説209.5図のように年数の経過に伴い、振動その他の原因でレールの接続部分の抵抗は次第に増加し、継目抵抗がある値に達すると、それからは急激に増加するものであるから、注意を要する。
正規にボンドが取り付けられている場合には、レールの継目の抵抗は概ねレールの1~2mに相当する抵抗値以下であって5mにも及ぶものは不良なボンドであると考えて差し支えないので、1の継目の抵抗を5m以下に保つように規定した。したがって、ボンドが切断又は脱落しているものは、当然本号の規定に抵触することとなる。また、総合で抵抗の増加を20%以下と定めた理由は、個々のボンドが正規に取り付けられ、保守が十分に行われておれば、抵抗の増加を20%以下に抑えることは技術的に困難でないと考えられるためである。
解説209.5図
第四号は、レールの溶接について規定している。レールを溶接すると、溶接部分の電気抵抗は極めて小さいため、帰線の電気抵抗を減少できるとともに、レール継目の振動、保線作業等により損傷しやすく、その保守に手数を要するボンドを省略することができるので、10mのレール3本を溶接することを目標として、30m以上にわたるように連続して溶接することとしている。
特殊の箇所というのは、曲線部分、わたり線又は分岐点のように、レールの摩耗が大きくレール交換の多い部分や、振動が激しく溶接やボルト締めに適さない部分を意味している。
レールを溶接して、いわゆる長尺レールとして使用することは様々な面で優れているので本号はこれによることを原則としているが、交通量の少ない地方の鉄道又は新しく電化した区間などでは、経済上その他の理由から溶接又はボルト締めのレールボンドを使用できることとしている。ただし書では、やむを得ないものとしてその代替の工事方法を定めている。「断面積115mm2以上、長さ60cm以上の軟銅より線を使用したボンド2個以上を溶接又はボルト締めにより取り付ける」とレールの継目の抵抗は、おおむね90μΩとなり、30kgレールの1.8mの抵抗に相当することとなる。なお従前は、溶接ボンドのみを規定していたが、ボルト締めボンドは実績があり、振動に強いことから追加した。
第五号は、前号の規定による溶接又はボルト締めにより接続された長さ30m以上のレールを更に接続する場合の規定であるが、ボンドの断線、脱落によるレール継目の電気的接続の悪化を防止するため、使用するボンドの種類と取付け方法を規定している。すなわち、イ及びロで規定する種類のボンドは脱落又は断線のおそれのないように、溶接又はボルト締めによって二重に取り付けることとしている。
イに規定する短小なボンドは、日本産業規格 JIS E 3601のV1型、V2型のボンドを意味している。ボンドの素線の太さの最高を制限したのは、耐震性を大きくするためであり、より線に限定したのは、リボン型の導体(耐震性が小さい。)
の使用を禁止するためである。
ロで、断面積60mm2以上、長さ60cm以上と定めているのは、断面積については、保線作業等による外傷、腐食等に対する抵抗力を電車線の太さを参考にして定めたものであり、長さ60cm以上と定めたのは、長さを大きくすれば非常に耐震性が増すためである。これに該当するボンドとしては日本産業規格 JIS E 3601のL形ボンドがある。
ただし書では、イ及びロの施設に代えて、長期にわたり耐久力があると認められる断面積190mm2以上、長さ60cm以上の軟銅より線を使用したボンドを溶接又はボルト締めにより取り付ける施設方法を認めている。これは前号ただし書の規定とともに電食防止研究委員会の研究結果に基づくものである。
第六号は、漏えい電流を制限するため、帰線のレール近接部分に生じる平均的な電圧降下の値を制限したものであるが、この値が2Vを超える場合には、変電所の新設によるき電区間の縮小、負絶縁帰線の数の増加、単位重量の大きいレールの使用等の方法を講じ、2V以下になるようにすること。なお、金属製地中管路の電食を防止するためには、帰線から大地に流出する漏えい電流値を直接制限することが望ましいが、漏えい電流を簡単に、かつ、比較的正確に測定する方法がなく、これを計算で求めることも容易でないので、帰線のレール近接部分に生じる電位降下を制限する方法を採用している。
帰線を流れる電流値として1年間の平均電流を用いることとしたのは、電食の被害は通過電流量に比例するので電車運転の変動等を考慮し、1カ年を1周期とみなしたためである。また「その区間内のいずれの2点間」というのは、第4項第一号に規定する区間内の帰線のレール近接部分の大地に対する電位が最高となる点と最低となる点(→解説209.6図)との間の電位差が問題となるので定められている。
解説209.6図
帰線のレール近接部分の電圧降下の計算方法は、次のとおりである。
イは、帰線のレール近接部分に流れる1年間の平均電流の算出方法を定めたもので、次の式により計算する。
1年間の平均電流 (A) =
車両運転に使用される変電所の直流側1年間の使用電力量 (kWh)
────────────────────────────────────────
8760×電車線の電圧 (kV)
上式の計算に当たっては、①電鉄き電関係一覧図、②電車種別ごとの運転区間及び1年間の運転回数、③各車両の車粁当たりの消費電力量の比、④各変電所における直流供給電力量及び電車線電圧等を調査し、これに基づき各変電所のき電区域内において電車の運転に消費される1年間の電力量を電車運転区間ごと(運転される電車の車両数、運転回数、各車両の消費電力量等を考慮する。)に計算し、これに基づきその区間ごとに帰線を流れる1年間の平均電流値を計算する。
帰線のレール近接部分の電圧降下の計算を行うには、各変電所のき電区域内における電車運転区間ごとの帰線を流れる1年間の平均電流値だけでなく、その電流の分布も知る必要がある。
一般に、実際の電流の分布は複雑であるので、これを解説209.7図と解説209.8図に示すように仮定して計算を行う。
解説209.7図
解説209.8図
ロは、計算を簡単にするため、レールからの漏えい電流はないものとして取り扱うことを定めている。なお、複線及び複々線軌道の場合は、帰線の電流値を上述の単軌道の場合のそれぞれ1/2及び1/4とする。
ハは、レールの電気抵抗の計算式を定めたもので、レールの電気抵抗を銅の12倍、ボンド抵抗によるレール継目の抵抗増加をレール長で20%増とした場合の計算式である。なお、レールの1㎏/mのものの断面積を1.25mm2、銅の固有抵抗を1.69μΩcmとする。
なお、ボンドの脱落若しくは断線又はレールの接続部分の破損等が生じると、帰線の電気抵抗が増大し、帰線の電圧降下も増大する。したがって、必要に応じて電圧降下を測定し、帰線の変化を把握することが望ましい。また、帰線のレール近接部分に生じる電圧降下の計算結果に相当大きな変動を与える軌道の延長、単線軌道の複線軌道化、著しいダイヤの変更等があった場合は、その都度、測定を行うことが望ましい。
帰線のレール近接部分の最大電位差を測定するには、計算又は適当な実測によって最大電位差を生じる2点を定め、この点に測定用の電線を接続し、内部抵抗の高い電圧計により測定することとなる。この方法による場合は、相当費用及び手数を要し、また、簡単に測定できない場合もあるので、電食防止研究委員会の研究結果に基づき、帰線の最大電位の生じる両端において、帰線の大地に対する電位を測定し、帰線の最大電位差を算出する方法等でこれに代えることを認めている。
この方法によれば、解説209.9図のように帰線の電位上昇により帰線付近の大地の電位が上昇するため、帰線の最大電位を生じる点の大地に対する電位の測定値は実際の値より小さく出る(電位測定用の接地棒の大地に対する電位が上昇することによる。)ため、この方法で算出された最大電位差の値は、直接最大電位差を測定した場合に比べ、若干小さな値を示すことになる。実測結果の例を挙げると解説209.1表のとおりである。これらの結果より、この方法により算出された最大電位差の値の10%増をもって帰線の最大電位差とみなして実用上は支障ないと考えられる。
解説209.9図
〔解説209.1表〕
なお、レールの大地に対する最大電位差の測定に当たっては、最大電位差が生じる時刻において、最大電位差の生じる両端における大地に対するレールの電位を同時に測定する必要がある。また、測定結果の整理の方法については、電食・土壌腐食ハンドブックを参照して正しい方法によらなければ正確なレールの最大電位差が得られないので注意が必要である。さらに、レールの継目の抵抗の大小は、帰線から流出する漏れ電流に大きく関係するので、測定は年1回程度測定して記録することが望ましい。
第5項
第5項は、砂利、枕木等の厚さが30cm以上(枕木の上面から測る。)の道床、コンクリート道床又はスラブ軌道等を使用した電気鉄道の帰線のレール近接部分が金属製地中管路と1km以内に接近する場合の施設制限に関する規定で、前項の場合に比べ、軌道床がよいため大地に対する漏えい抵抗が比較的高いので、施設制限が緩和されている。ただし書は、
第4項ただし書と同趣旨のものである。
なお、本項の対象となる専用敷地内の帰線についても、帰線のレール近接部分に生じる最大電位差の測定及びレール継目の抵抗の測定は、前項で解説したように行うことが望ましい。
第4項の施設制限の対象となる帰線(主として併用軌道)と本項の施設制限の対象となる帰線(主として専用軌道)とが混合して敷設される場合の帰線漏れ電流、帰線電圧降下等の状況は、その組合せ及び混合率によって変化するので、その施設制限に一定の基準を定めることは困難であり、本解釈にはこのような場合の基準を明示してはいない(したがって、第4項の規定が適用される。)。
その施設制限は、前項第二号及び第三号に準ずるほか、次により施設することとしている。
第一号は、第4項第一号と同様、施設制限を行うべき区間を定めたものであるが、本項の規定は前項に比べ施設制限が相当緩和されているので、1変電所のき電区域で地中管路から2km以内の距離にある一つの連続した帰線をその区間と規定し、地中管路から前項の2倍の距離にある帰線を施設制限の対象としている。
第三号は、前項第四号と同様の趣旨で、特殊の箇所(→前項第四号解説)を除き、溶接又はボルト締めによってレー
ルの1本の長さを20m以上とすることを定めているが、これはレールの長さ10mのもの2本を溶接する場合を基準として定めたもので、20m以上の長尺レールを使用する場合は、当然これに適合する。溶接することが困難な場合については、ボンドをもって代えることができる(→前項第四号解説)。
第四号は、前項第五号と同様の趣旨で、レールの継目の電気的接続について示したものである。ボンド取付けを溶接又はボルト締めによることを原則としたのは、両者のいずれかにすれば堅固に取り付けられるので、脱落や端子とレールとの接触抵抗の変化が少ないためである。
第五号は、前項第六号と同様の趣旨で、帰線からの漏えい電流の制限に関する項目である。本項の場合、軌道床の漏えい抵抗が比較的高いので、前項の2V以下が15V以下に緩和されているが、この電位差がレールの特定部分に集中すると大きい障害を生じるおそれがあるので、別にレールのこう長1kmにつき2.5V以下とするよう制限を設けている。
なお、上述のレールのこう長1㎞につき2.5V以下とは、解説209.6図において(Vab / lab)≦2.5V、 (Vbc / lbc)≦2.5V…………
となることをいうのである{Vab、Vbc:電位差(V)、lab、lbc:2点間の距離(km)}。電位差の計算方法は、前項第六号解説のとおりである。
第六号は、直流帰線のレール近接部分において、次条に規定する排流接続を除き接地抵抗の低い金属製構造物との接続を禁止したものである。これは、車庫等においてレール近接部分が鉄筋コンクリート構造物の鉄筋のような低接地抵抗の構造物と接触し、漏れ電流が大きくなると金属製地中管路に電食障害を及ぼすおそれがあるためである。しかし、車輪転削装置のように、帰線と低接地構造物とを分離することが困難な場合は、漏れ電流の流れる時間を短くするため、帰線を開閉する装置を施設することを定めた。その装置の一例として、帰線自動開閉装置の結線図を解説209.10図に示す。
解説209.10図
第七号は、本項の規定が前項に比べかなり緩和されているので、レールの漏えい抵抗が土地の状況その他により低いため又は地中管路が帰線に極めて接近するため若しくは河川や海岸に軌道が接近するため等により、第二号から第六号の規定により施設しても、なお地中管路に障害を及ぼすおそれがある場合には、更に適当な防止方法(変電所又は負き電線の設置等)を講ずべきことを示している。